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​易と陽明学

自分の心と向き合い、良知を養って実践し、​自然摂理に則って生きているか日々、自問自答することが大切です。『易経』を学ぶことが陽明学を知る近道になります。

王陽明(1472~1529・58歳没)は中国・明朝時代の儒学者、文武両道の文官で陽明学を起こした聖人です。明朝時代は今までになく皇帝の独裁政権が強く、独裁皇帝の耳目を果たした宦官が悪影響を及ぼした時代でもあります。歴史はこのような暗黒が蔓延した時代に英雄や聖人を出現させます。王陽明もその一人です。彼は文官ですが、武芸や詩学など様々な才能に秀で、儒学と兵法を究めた文武両道の儒学者でした。彼は日常生活の中で、実践を通して心に理を求める実践の儒学である陽明学を唱えました。王陽明の功績は三征という軍事的業績があります。それは、江西福健省南部の農民反乱・匪賊の鎮圧や寧王の乱をわずか2か月で鎮圧した事、及び、江西で反乱が起き、病気をおして討伐、戦後処理を行ったことです。

 彼が35歳の時、15歳の武宗が即位したが宦官の劉瑾(りゅうきん)に実権を任せていた愚かな皇帝でした。宦官の劉謹は実権をほしいまま行い、贈収賄が横行して、それを諫言する者は粛清されました。軍紀は退廃し政治は弱体化しました。王陽明は皇帝に諫言する職務の諫官を投獄することに対して批判し、弁護する上疏文(じょうそぶん)を提出したが、反対に劉瑾を弾劾したことで武宗皇帝を怒らせ、投獄されてしまいます。厳しい鞭打ちを受け、十二月の厳しい寒さの中で『易経』を読み研究したと伝えられています。

陽明は伝習録の中で『「易」とは、天に判断を問う事です。中略。天のみは作為の付け入る余地がないからです。』と言っています。その後、貴州省龍場駅の駅丞(事務官)に左遷が決まりました。その時に占筮して得た卦は。地火明夷・䷣の「不遇の意、隠忍持久の意、忍耐して時機到来を待つ意」でした。陽明はついに、龍場に行く決意をし、その時『海に泛(うか)ぶ』という詩を筆で壁に記しました。

 陽明学を知らない方は革命思想と言った誤解と偏見を持っておられます。王陽明は逆境の中で『易経』を極められた人です。王陽明は『易経』の自然摂理を悟り、それに則った行動を行った聖人です。是非、安岡正篤、岡田武彦、林田明大、各先生方の王陽明の著書を読んでいただきたいと思っています。

​ 私の生活の基本は「今行おうとしている事は自然に則して正しい事なのか」を考えて行動しています。この教えは作家で陽明学研究家の林田明大先生の講演会で聞いた内容を生活の中で実践しています。人間が持っている良知(生まれながらに持っている善悪を誤らない正しい知恵)を致す(発揮する)が王陽明先生が唱えた「致良致」で、それを実践するのが「知行合一」です。22段飛びで社長になられた松下電器産業株式会社の元社長の山下俊彦氏は「本を読んで良いと思ったことは実践しないと、それは読書ではない」と言われていました。山下俊彦元社長も中国古典を読まれ人間学を学ばれて経営で実践されていました。

王陽明のイラスト図

陽明学のまとめ

⑴儒教の創始者達

 孔子(552~479 BC)春秋時代の人。倫道徳を主眼とした理想的な社会を実現するこ 

 とと、伝統文化を尊重し、これを学んでそこから時代に適応する新しい道を創造する事

 (温故知新)を説いています。

 孟子(372~289 BC)戦国時代の人。老子、荘子などの超越主義の影響もあり、徳業の

 本である人間の本性や良心を説いています。万物我に備わる「善は人と与にし」「楽し

 みは人と与にする」万物一体思想です。

⑵朱子と陽明の比較

 理知的で他律的な人倫道徳を説いた朱子に対して、情愛に溢れた自律的な人倫道徳を

 説いたのは陽明です。

⑶王陽明について

 姓:王 名:守仁 字(あざな):伯安 号:陽明 諡(おくりな):文成

 一般的には王陽明と尊称される。中国明代の儒学者、文官(文武両道の儒学者)

 58歳没(1472~1529)

⑷明朝時代の背景

 明朝時代は今までになく皇帝の独裁権が強く、独裁皇帝の耳目を果たした宦官が悪影

 響を及ぼしました。南宋と明の末期の時代は歴史の中でも退廃した世の中でした。この

 ような退廃した世の中から社会貢献をした偉大な賢人が輩出したのは、意義深いものが

 あります。

⑸思想体系

​ 陸象山の心に万物の法則があるという「心即理」の立場をより明確にしました。

⑹格物致知

 あらゆる事(物)を格(ただ)すことで、誰もが本来持っている良知を発揮すること

 ができる様になります。(良知:人が生まれながらに持っている、是非・善悪を誤ら

 ない正しい知恵)

⑺理・気

【一元論】大宇宙の法則である「理」とそれらを構成する要素である「気」は一体であ 

 ると考えました。理、気、性、物は一体であり、自己の外にあるものではないと考え

 ました。万物一体思想。聖学の究極である万物一体の仁としました。

⑻性、理

 万物に具わっている本性を「性」と言います。性即理という立場は朱子と変わりませ

 んが性は理の作用であると考えました。

⑼善悪

 性善説。人間の本質は至善で、本来は善悪一元、又は、無善無悪です。しかし、相

 対的な存在としての善悪があるので、良知を発揮して至善に至ることが大切としてい

 ます

⑽経書に対する姿勢

 心の学びがあってこその経書と考えました。

​⑾静坐

 内省の手段として勧めたが、静に偏ることや厭世的(えんせいてき:人生を悲観し、 

 生きるのがいやになるさま)になることを戒めました。

 「静坐悟入(理・本質を体認する静坐)」と言われ、門人中で間違って認識し仏教の

 静寂の道に陥る者が出たので廃しました。

⑿聖人君子

 聖人君子と同じ心を誰もが持っていると考え、それを発揮することを主張しました。

⒀大学

 『大学古本』朱子が改訂する前の『大学』を王陽明は提唱しました。『大学』は大人

 の学です。大人とは天地万物を一体とするものです。

 『大学』:儒学の理想である修己治人を要領よく系統的に説き明かした書物で、修

 身、斉家、治国、平天下の政治と学問を直結した儒学の精髄です。

『大学』三綱領の「親民」

 民に親しむと解釈し、民と同じ目線に立った民との融和と考えました。

 『大学』の三綱領のあと二つは「明徳(天から授かった立派な本性を明らかにす

 る)」「至善」を言います。

⒂『大学』八条目

 理を窮めて性を尽くすことを、「物、知、意、心、身、家、国、天下」という観点で 

 説いたものと考えました。

 ◎日本の小学校の校庭にある二宮金次郎像が読んでいる本は何?

  彼が読んでいる本は『大学』で、大学の伝九章の一文が書いてあります。

 (書いてないものもあります) 子供たちに教えてあげたいですね。

  一家仁、一國興仁、一家讓、一國興讓、一人貪戻、一國作亂。其機如此。

  一人ひとりが仁(思いやり)の心を持てば、国すべてが仁の心になり

  一人ひとりが謙虚な気持ちを持てば、国すべてが謙虚な心になる。

  一人ひとりが利を貪れば、国は乱れてしまう。

人民救済天下平定

 王陽明の三征(軍事的業績)

 ・江西福健省南部の農民反乱・匪賊の鎮圧

 ・寧王の乱をわずか2か月で鎮圧

 ・江西で反乱、病気をおして討伐、戦後処理

⒄『易』の占筮事例

 王陽明:貴州省龍場駅の駅丞(事務官)に左遷が決まった時に占筮して得た卦は、

 地火明夷 ䷣でした。その意は不遇の意、隠忍持久の意、忍耐して時機到来を待つ 

 意になります。王陽明の状況と一緒の内容になります。そして、陽明は龍場に行 

 く決意をしました。その時『海に泛(うか)ぶ』という詩を筆で壁に記したのでし

 た。
⒅名言

​ 王陽明「山中の賊を破るのは易いが、心中の賊を破るのは難しい」

「此の心光明亦復(またま)た何をか言わん」王陽明辞世の句

 我々の心の中には光り輝く良知があるではないか、他に何も言い残すことはない)

⒆易

 王陽明の言葉「易とは天に判断を請うことである」

 弟子で心学易研究の王龍溪(王畿)は心にこそ真理があるとする心即理を易で解釈し

 ました。

「陽明学のまとめ」の記事はイーチンライフ・I CHING LIFE の柏村學震氏に協力していただき​共同執筆しております。 
 

二宮金次郎銅像

私が読んだ陽明学関連の本

『中国の人と思想⑼ 王陽明』百死千難に生きる 山下龍二 著 集英社

『王陽明』 安岡正篤 著 現代活学講和集7 PHP研究所

​『現代の陽明学』 岡田武彦 著 明徳出版社 発行

『真説・陽明学』入門 林田明大 著 ワニブックス

『評伝 二宮金次郎』心の徳を掘り起こす 童門冬二 著 致知出版社

​『王陽明 伝習録』溝口雄三 著 中央公論社

​ 陽明学のバイブルは伝習録です。陽明学を学ぶには必読の書になっています。

​日本陽明学の開祖、近江聖人中江藤樹

1608(慶長13年)-1648(慶安元年)。江戸時代初期の儒学者。わが国における陽明学の開祖。数多くの徳行、感化によって、没後に《近江聖人》とたたえられる。近江国高島郡小川村(現在の滋賀県高島市安曇川町上小川)に、中江吉次の長男として生まれる。
名は原(げん)、字は惟命(これなが)、号は嘸軒または顧軒、通称は与右衞門(よえもん)、幼名は原蔵(げんぞう)という。普通おこなわれている藤樹とは号でなく、屋敷に生えていたフジの老樹から、門人たちが《藤樹先生》と呼んだ尊称に由来する。
9歳、米子藩主加藤貞泰の家臣であった祖父・中江吉長の養子となり、米子に行く。10歳、藩主の国替えにともない、伊予国大洲(現在の愛媛県大洲市)に移り住む。15歳、祖父の死去により、100石取りの武士となる。17歳、独学で『四書大全』を読み、朱子学に傾倒する。しかし、33歳のとき、『王龍渓語録』を、37歳のときには『王陽明全書』を入手するや、熟読玩味して、おおいに触発感得をうける。それまでの学問上の疑念が解け、格法主義的な生活の非なることを知り、しだいに王陽明の「致良知説」へと信奉していった。これより以前の27歳のとき、母への孝養と自身の健康を理由に大洲藩士の辞職を佃家老に願いでるが、ついに許可を待たずに脱藩して、ふるさとの小川村へ帰る。浪人(牢人とも書く)となった藤樹は、居宅を私塾として開き、41歳で亡くなるまでのおよそ14年間、大洲からやってきた藩士や近郷の人々に《孔孟の学》や《陰隲》を教導する。
代表的な門人としては、熊沢蕃山、淵岡山、中川貞良・謙叔兄弟、泉仲愛らがいるが、とりわけ藤樹没後における蕃山の事績によって、藤樹の名声をいちだんと高めたことは注目しなければならない。
また、魯鈍の門人であった大野了佐にたいして、大部の『捷径医筌』を著わし、それをテキストにして熱心に医学を教え、立派な一人前の医者に育てあげた話は、人を教えて倦まない藤樹の生き方を知るうえで、あまりにも有名なエピソードの一つである。
藤樹の著書は、『藤樹先生全集』全5冊(岩波書店版、昭和15年)に収められている。そのおもなものとして、『翁問答』『鑑草』『孝経啓蒙』『論語郷党啓蒙翼伝』『論語解』『大学考』『大学解』『大学蒙註』『中庸解』などがある。

​高島市ホームページ中江藤樹より掲載

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びわ湖源流の郷・高島市より 近江聖人中江藤樹の遺構を訪ねて

​YouTube アミンチュ公式チャネルより掲載

中江藤樹夫妻の神主

藤樹夫妻の神主(位牌)(藤樹書院内)

神龕欄間(しんがんらんま)の上部に地山謙・䷎、左扉に八卦の乾・☰(藤樹先生)が、右側に坤・☷(奥様)が其々刻まれています。中江藤樹先生にぴったりの地山謙の卦になっています。感動致しました。

​この写真はホームページ「蒼流庵随想・漢方と易学」の蒼流庵様の許可を得て掲載しています。掲載許可有難うございます。

地山謙(ちざんけん・序卦伝 15番目の卦) ䷎  謙(けん) 艮下上坤 

​    謙遜 【謙遜・謙譲の道】 

 地山謙は謙遜、謙譲、身を低くして遜(へりくだ)る卦です。外卦に坤・地、内卦に艮・山があり、地より高い山が下に在る処から遜る象としてこの卦を名付けています。謙は徳の根幹で、君子の有終の美となります。謙遜の心は神からも人からも愛されるのである。

「謙は軽くして、豫は怠るなり。」(雑卦伝)

謙は身を軽くして遜(へりくだ)っている、豫は悦び楽しんでいるので気が緩み怠惰になる。

彖辞(卦辞)「謙、亨。君子有終。謙は、亨る。君子終わり有り。」

       謙遜は物事がうまく通ずる。徳ある君子は謙遜の心を持ち、有終の道を全うで

       きるのである。

大象伝 「地中有山、謙。君子以裒多益寡、稱物平施。 地中に山有るは、謙なり。

     君子以て多きを裒(へ)らし寡(すくな)きを益し、物を称(はか)り施しを平らかに

     す。」

     地の中に高い山があるのは謙である。君子はこの卦を見て多き者を減らして、少な

     き者を益し、それぞれの物の状態を量り施し、世の中を平均化するのである。

中江藤樹銅像

​藤樹先生は門弟に『易経』をしっかり学ぶように言われたようです。『易経』をしっかり学ぶことが陽明学を知る近道だと思います。

心学易を推進されている、柏村學震さんとのSNS/メール交流で学ぶことができました。

陽明学と安岡正篤

安岡正篤

安岡正篤先生(1898-1983)は日本の偉大な易学者、​陽明学者、哲学者、思想家であり、素晴らしい人間力のある偉人です。大阪市生まれで東京帝国大学法学部政治学科卒業されています。その後、金鶏学院、日本農士学校を設立され、東洋思想の研究と後進の育成にと務められました。戦後、師友会を設立され財政界のリーダーの啓発・教化に務められ精神的支柱になりました。昭和天皇が玉音放送で発せられた終戦の詔勅の草案作成にかかわられ、また平成の元号の考案者でもありました。人間学を中心として今なお、国民的教育者として私たちの進むべき道を示されています。安岡正篤先生の本を読まれると開眼するものがあると思います。

​ 陽明学は、安岡正篤先生が言われている「われわれの心をいかに修めるか、根本の学『心身の学』というべき活学なのであります。」が私の心に深く残っています。

思考の三原則
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・陽明学者の安岡正篤先生が唱えた「思考の三原則」

 ◆真実を知る思考の力

 1.目先にとらわれないで、長い目で観察する。

 2.一面にとらわれないで、多面的、全面的に考察する。

​ 3.枝葉末節にとらわれないで、根本的に観察する。

   「時間と多面と核心」思考ですね。

安岡正篤先生の著書

『王陽明研究』 明徳出版社 発行 1981.3

​『東洋倫理概論』 関西師友会 発行 1988.7

『呻吟語を読む』 致知出版社 1989.6

『立命の書『陰騭録』を読む』 致知出版社 発行 1990.2

『経世琑言』 致知出版社 発行 1994.12

『人間学のすすめ』 福村出版㈱ 発行 1987.4

『王陽明 その人と思想』 致知出版社 発行 2016.5

『現代活学講和選集7 王陽明 知識偏重を拒絶した人生と学問』 PHP研究所 発行 2006.1 

『人生と陽明学』 PHP研究所 発行 2002.6 

『新装版禅と陽明学・上ー人間学講和[新装版]人間学講和』 プレジデント社 発行 2016.10

『陽明学十講』 郷学研修所安岡正篤記念館 発行 2011.2

『王陽明と朱子』 郷学研修所安岡正篤記念館 発行 2014.4

『易と人生哲学』 致知出版社 発行 1998.9

『易学入門』 明徳出版社 発行 2022.12

『東洋思想の人物』 明徳出版社 発行 1991.11

『人生をひらく活学』 PHP研究所 発行 2003.10

​『運命を創る(安岡正篤人間学講和)』 プレジデント社 発行 2015.3

『安岡正篤一日一言』 致知出版社 発行 2006.6

『活学 第一編』 致知出版社 発行 2023.3

​『新装版 人物を創る (安岡正篤人間学講和「大学」「小学」)』

『 新装版 運命を開く(安岡正篤人間学講和)』 プレジデント社 発行 2015.3

『新装版 論語の活学ー人間学講和[新装版]人間学講和』 プレジデント社 発行 2015.5

『新装版 人生の大則(安岡正篤人間学講和)』 プレジデント社 発行 2016.6

『新装版 知命と立命(安岡正篤人間学講和)』 プレジデント社 発行 2015.8

『先哲講座』 致知出版社 発行 1988.2

『現代活学講和選集1 十八史略(上)激動に生きる強さの活学』 PHP研究所 発行 2009.3

『照心講座』 致知出版社 発行 2011.9

『人生手帖』 致知出版社 発行 2018.3 

​ など、多数出版されています。

​王陽明と岡田武彦

岡田武彦先生(1908年~2004年・享年95歳)は九州大学名誉教授で王陽明の第一人者であり中国哲学者、陽明学者、著作家でした。 

 兵庫県白浜村字中村にて出生、旧制兵庫県立姫路中学校、旧制姫路高等学校文科を経て、九州帝国大学法文学部支那支哲学史専攻卒業。昭和33年九州大学教授、昭和35年文学博士、昭和41年米国コロンビア大学客員教授、昭和47年九州大学定年退官・中華学術院栄誉哲士、九州大学名誉教授。昭和56年叙勲三等、授与旭日章、平成12年西日本文化賞(学術部門)受賞、平成16年10月福岡市の自宅にて逝去。享年95歳。

 岡田武彦先生は王陽明の墓の復建に尽力をされた方で、世界的に王陽明研究の第一人者でした。朱子学は理学、陽明学は心学、岡田武彦先生は身学を提唱されました。岡田武彦先生は大学時代に楠本正継教授に師事されています。姫路藩の仁寿山校を設立された河合寸翁は崎門学派の儒学者でしたが、岡田武彦先生も崎門学派の儒学者です。福岡県朝倉市に岡田記念館があります。

主な著書:『宋明哲学の本質』『王陽明と明末の儒学』『簡素の精神』

     『王陽明紀行』『東洋の道』『楠本端山』『東洋のアイデンティティ』

     『山崎闇斎』『貝原益軒』『孫子新解』『王陽明小伝』『岡田武彦全集』

     『ヒトは躾で人となる』『崇物論-日本的思考-』など多数

岡田武彦先生の『崇物論』(すうぶつろん)

西洋思想と東洋思想の違いは一言でいうと、「と」と「も」の違いです。西洋思想の「あなたと私」は、あなたと私は異なる線引きの世界です。東洋思想の「あなたも私も」はあなたと私は共にある世界です。西洋の世界は個の世界ですから、契約を重視します。東洋世界は共同体で生きる思想が重視されます。あなたと私は共に生きていこうという精神ですね。

 

 岡田武彦先生は晩年『崇物論』を発表されました。先生は「人や物を崇敬せよ」と呼びかけられています。「敬虔の心こそが万物を一体とする」と。人と共に悲しみ、人と共に喜ぶ。そして自然と共に生きる。『共に生きる』ことです。河合寸翁は江戸末期の姫路藩の家老・賢人ですが、彼も同じ考え方をもって、藩政改革と財政再建に取り組んだのではないかと思います。未来を生きる我々は、この『共に生きる』心を持って、且つ王陽明の『良知』を実践することが肝要かと思います。混沌とした功利主義の現代を救えるのはこのキーワードしかないと思います。

 

 朱子学の理学、陽明学の心学、岡田武彦先生は身学を提起されました。静座は心の敬を求める法、兀坐(こつざ)は身の敬を求める法です。兀坐とは、背筋を伸ばし、腰骨を立てて、目をつぶり、身体を静かに、ただじっと坐ることです。椅子に座ってもよし、床に座ってもよいようです。身体が静を知っている、兀坐だそうです。ユーチューブに岡田武彦先生の講義が残っていますが、勉強会の冒頭に10分程度兀坐をされています。現代人は忙しすぎる、動を働かすには静の兀坐を生活に入れることが大事といわれています。自然体の兀坐です。先生は『身学説』として

「人間の心の精妙な働きが身体、特に脳の生理的作用による、故に、身は宇宙の根源であり、兀坐して以てその根をを培養することが初学の道である。」と説かれています。皆さんも兀坐を生活に取り入れてみてください。

※座禅:仏教的(超越主義)な世界観、人生観から生まれた心の学。

※静座:儒教的(理想主義)な人生観から生まれた心の学。座禅を超えて出てきた修行法。

※兀坐:静坐を超克して出てきたもの。身の学。    

◆参考文献・資料

※崇物論-日本的思考-岡田武彦 平成15年8月24日

※参考文献『李退溪によって結ばれた岡田武彦と金景煕会長の友誼』

      福岡女学院大学人文学部 教授 難波征男

※参考HP:貝原益軒「養生訓」貝原益軒文化講座 平成14年 岡田武彦講師(93歳)

      松尾允之著

      貝原益軒博物館は福岡の久山町のホテルの中にあるそうです。

岡田武彦先生の兀坐培根

​岡田武彦先生に頂いた「兀坐培根」

人生観-1.png

もう一つ岡田武彦先生から学んだことがあります。それは『東洋のアイデンティティ』の巻末の「あとがき」に書かれている文章でした。先生は古代の思想家から時間と場所を超えて通用する「処世に重要な三つの人生観」を私達現代人に教えて下さっています。先生の著書からその部分を抜粋します。

 

それは「第一は、人間は徹底的に私利私欲を求める功利的な存在であるという考え方にもとづき、これに対処する道を講ずる現実主義に立つもの、

 

第二は人間のなすことは徹底的に矛盾に充ちたものであるという考えにもとづき、人間を超えた自然の道に従っていこうとする超越主義に立つもの、

 

第三は、人間は元来思いやりの深い存在であるという考えにもとづき、倫理道徳による理想社会を実現しようとする理想主義に立つもの、この三つである。

 

私個人の希望を率直に申し上げれば、第一・第二の人生観をしっかりとよく理解した上で、第三の人生観に従ってほしいと思う。」です。

 

私はこの文章を読み、何か腑に落ちた様な感じがしました。私自身が企業や社会で体験したことやビジネス倫理で説かれている内容が、この先生の言葉に全て含まれていると思いました。

岡田武彦先生の著書

『宋明哲学の本質』 木耳社 発行 1984.11

『東洋のアイデンティティ 中国古代の思想家に学ぶ』 批評社 発行 1994.4 

『ヒトは躾で人となる』 登竜館 発行 2002.5

『陽明学つれづれ草』 明徳出版社 発行 2001.4

『シリーズ陽明学2 王陽明(上)』 明徳出版社 発行 1989.5

『シリーズ陽明学3 王陽明(下)』 明徳出版社 発行 2018.7

『岡田武彦全集 5 王陽明大伝5 ー生涯と思想ー』 明徳出版社 発行 2005.10

『岡田武彦全集 6 王陽明全集抄評釈 上』 明徳出版社 発行 2006.10

​『岡田武彦全集 7 王陽明全集抄評釈 下』 明徳出版社 発行 2006.10

『岡田武彦全集 8 王陽明紀行 上』 明徳出版社 発行 2007.10

『岡田武彦全集 9 王陽明紀行 下』 明徳出版社 発行 2007.10

『岡田武彦全集 10 上 王陽明と明末の儒学』 明徳出版社 発行 2004.6

『岡田武彦全集 12 孫子新解』 明徳出版社 発行 2003.9

『岡田武彦全集 14 東洋の道』 明徳出版社 発行 2006.5

『岡田武彦全集 19 中国思想の理想と現実』

『岡田武彦全集 21 江戸期の儒学』 明徳出版社 発行 2010.10

『岡田武彦全集 22 山崎闇斎と李退渓』 明徳出版社 発行 2011.10

『岡田武彦全集 23 貝原益軒』 明徳出版社 発行 2012.10

『王陽明小伝』 明徳出版社 発行 1995.12​

『簡素の精神』 致知出版社 発行 1998.8

『警世の明文 王陽明拔本塞源論』 明徳出版社 発行 1998.9

『現代の陽明学』 明徳出版社 発行 1992.11

『崇物論-日本的思考-』​岡田武彦 口述 森山文彦氏が文章化 ​2003.8

​ など多数出版​されています。

​陽明学と林田明大

林田明大(はやしだ あきお)

1952年、長崎県島原市生まれ。ノンフィクション作家、陽明学研究家、日本陽明学実践家。独学にてゲーテやルドルフ・シュタイナーの思想から禅まで、東西の哲学・思想を修得。これらの思想・哲学を比較融合させた独自の視点による研究で知られる。その間、王陽明の思想に触れ、94年にデビュー作『真説「陽明学」入門』を出版し「帝王学」というそれまでの誤解を解消し、現代人のための実践哲学として復活させた。この書籍は10余年前から、グロービス経営大学院で必読書に選定され、教科書としても採用され続けている。陽明学の一般書の英訳刊行も世界初で行われた。97年に「国際陽明学京都会議」に実践部会を代表して発表を行った。陽明学的に生き方を貫く良師、良書を糧に現代人に向けて活きた書籍を数多く手がけている。

著書は

 『評伝・中江藤樹』 三五館

 『真説「伝習録」入門』 三五館

 『財務の教科書、「財政の巨人」山田方谷の原動力』 三五館

 『陽明学と忠臣蔵 不況・逆境に負けない心の鍛え方』 徳間書店

 『イヤな「仕事」もニッコリやれる陽明学』 三五館

 『山田方谷の思想を巡って、陽明学左派入門』 明徳出版社

 『志士の流儀』 教育評論社など多数。

 越川禮子との共著に『「江戸しぐさ」完全理解』『少年少女のための「江 

 戸しぐさ」』いずれも三五館。

 『新装版・真説「陽明学」入門』の中国語版『青年们,读王阳明吧!(青年

 よ、王陽明を読め)』 東方出版社

 『渋沢栄一と陽明学』の中国語版『涩泽荣一与阳明学』も東方出版社から 

 2023年内には刊行予定。

 ブログ:林田明大の夢酔独言 

 (http://blog.livedoor.jp/akio_hayashida/

2020/09/27

日本陽明学研究会 姚江の会 特別講演会

​「その存在さえ知られてこなかった日本陽明学」

柏村學震氏が推進されている陽明心学
こころで読む『易経』 本当の自分を知る 良知易のすすめ 

こころで読む『易経』.jpg

 柏村學震(かしむら がくしん)氏と著書の紹介

昭和39年生まれ。大岳易の流れをくむ笠原維信先生の経営易学教室・応用科で平成21年から2年間『易経』を学ぶ。平成26年から陽明学研究・実践家の林田明大先生が主催する姚江の会で陽明学を学び始める。現在は、台湾式リフレクソロジーのプロを育成する国際若石メソッドスクールの副校長を務めている。併せて『易経』と陽明学を学びながら、「良知易」、つまり素直な心に気づく心学による易(日常生活で学ぶ『易経』)の啓蒙教育活動を行っている。今回、発行された『こころで読む『易経』-本当の自分を知る良知易のすすめ』は人間が本来持っている善なる心を育て、素直な心で豊かな日常生活、人生を過ごせるように、情熱を傾けて書き上げた渾身の書となっている。『易経』を分かり易く説明し、心で読むことを念頭に楽しく学べるように工夫されている。『易経』を通して素直な心を喚起し、本来の自分を取り戻す為のガイドブックとして活用していただきたい一冊である。

​私が日常に活かす易と陽明学

・自分の行いや社会の事象が自然に適っているか、自然に則しているかを考え

 て行動する。(林田明大先生の講演で学びました。)

・素直な心は自然に通ずるので、怒りや悲しみに出遭っても原点の素直な心に

 戻る。素直な心はその人の一番の能力であり、宝物になります。

​ (松下幸之助さんは、リーダーの要件として素直な心を持っている人であることを  

  第一に挙げておられました。

・陽明学を理解するには、王陽明先生や中江藤樹先生が学ばれた『易経』を学

 ぶ事です。『易経』には自然摂理(変化の摂理)、自然哲学、人倫道徳が包

 含され、生きる道を指示してくれています。

 正しい道から外れていれば、引き返すことが一番大事であると『易経』は言

 っています。『易経』を通じて自分の心と対話することが大事です。

 現代人は忙しすぎて自分の心と対話をしていません。『易経』を通して、そ

 の考えは自然に則しているかを自問自答すれば、自ずと進む道が見えてきま

 す。

・陽明学者の安岡正篤先生が唱えた「思考の三原則」を思い出す。

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