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@私の易の学び方
術数学とは
古代中国は自然現象を観察し、そこから自然科学分野の発見と発明を行ってきました。中国起源の発明は活版印刷、火薬、羅針盤、紙があり、また、中国特有の学問として天文暦法、音律学、鍼灸医術、本草学があります。そして、中国科学の基礎理論が形成されたのは漢代になります。術数学とは中国の数術で、自然科学と占術の複合領域に存在する学問です。そして、術数学のベースは易や老子の自然哲学にあります。また、その方向は思想、宗教、技芸、習俗、兵法など他領域に及びます。そして、方術(祭祀、祈祷、卜占、呪術、占星術、不老長寿術、煉丹術、医術など)で熟成された科学知識は易を核として経学的学問体系の理論ベースを形成しています。
術数学は暦算(暦数)と占術からなり、暦算は天文学、数学、地理学が主な内容になります。そして、占術は八卦、陰陽五行思想、十干十二支、天円地方、天人相関説などをベースとした占術になります。術数学のベースは易や老子の自然哲学にあります。主要な術数学は下記の内容になります。
※天円地方:天は蓋の様に円く、地は基盤の様に方(しかく)であるという考え方。
※天人相関説:天・自然と人・人事とは対応関係があるという説。
劉歆(りゅうきん)の規定の術数学は以下のようになります。
(中国最古の書籍目録は『漢書』芸文志・劉歆の『七略』)
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天文(星占)
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暦譜(算学と暦学)
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五行(五行占)
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蓍亀(亀卜と占筮)。易学は卜筮の学で術数学的占術の筆頭となります。
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雑占(夢占や象占など)
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形法(地学や観相学など)
※劉歆:中国前漢末から新にかけての経学者、天文学者、目録学者。
易の六義に変・不変・簡・象・数・理がありますが、変・不変・簡は規則で、象・数・理は宇宙摂理を認識する為の方法です。易には数があります。河図や洛書、九宮八卦図、大衍の数、そして、後に陰陽五行思想が生まれ、発展していきました。
■術数学の核となっている、易と陰陽五行思想についてのまとめ
※当該ホームページでは重複した内容が出てきますが、記憶しやすいように掲載しています。
1.易の起源
⑴蓋天説(がいてんせつ)と易を生み出した圭表
古代の中国人は、天は蓋の様に円く、地は基盤の様に方(しかく)であると考えていました。
⑵易を生み出した圭表(日時計)
古代の中国人は、自然現象を究明していく中で宇宙の普遍的な法則に気づき卦表(日時計)から易が考え出されました。八尺の圭表:股(もも・縦)、句(こう・横・日陰の長さ)、弦(げん・対角線)から構成されています。
・圭は卦です。圭は圭表(日時計)です。
・句(こう)は主圭の影です。
・古代人は圭表を活用して、方位、四季、二十四節気、太陽年の長さを算出しました。
・圭表の影の最長の日を冬至(正月元旦)としました。太陽年は測定の結果365.25日とし、日月の交差などを参照して暦をつくりました。
⑶易の太極図の起源
皆さんがよく見る太極図は何を根拠に描かれているかご存知ですか。太極は元気、絶対、創造です。陰陽交わる二元論的(陰・陽)に描かれていますが易は一元論です。太極は創造概念を表すもので、「〇」や「━」で表現します。この陰陽交わる太極図は分化した表現です。太極図を一言で言うと、1年間の日陰の変化を記録したものです。左に8尺の圭(日時計)を立て、1年間を24等分(二十四節気)にし、15日間の日影の伸縮状況を表したものです。「易」は自然現象の基本原理に基づいてわかり易く簡単で、宇宙の万物はいつも変化している恒常的な不変の法則があります。これを「簡易」「変易」「不易」と言い、「易の三義」です。ですから、「易」の森羅万象の摂理を基にした思考を思索すれば、従う生き方が見いだせると言うことです。留まることがなく、且つ窮する事がなく創造(クリエーション)していきます。
◆太極図に後天八卦、二十四節気、十二支、五行、及び方位を記載しました。
(パワーポイントと手書きで作図しました)
2.大衍(たいえん)の数と時空モデル
句(こう)(3)、股(こ)(4)、弦(げん)(5)は、中国の古代人が竿を立て影の長さを見て、農作業の時期を決める際に発見されたものです。そして、其々の2乗の和は50となります。この数字は「河図」の数55から真ん中の生数の5を引いた数字、50と一致します。この50の数字を大衍の数と呼んでいます。時空から算出したこの数字は「天地の理」を総括しています。「大衍」の「大」は宇宙の至極、「衍」は演算の意味があります。
※大衍の数は河図の数55から生数の5を引いた数50になります。河図の数(自然数)を合計すると55になります。
天の数(1+3+5+7+9=25)+ 地の数(2+4+6+8+10=30)=55
大衍の数は「ピタゴラスの定理」、又は「句股弦の定理」とも言われています。
占筮(本筮法)では筮竹を50本使用し、内1本を太極とし、残る49本を占筮として活用します。古代人が圭表の運用で経験から編み出した数は49となっており、自然の運行として模した筮法となっています。『易経』繋辞上伝(易の総論)第九章 本筮法の説明があり「大衍の数」が記載されています。
3.易の構成
・太極:混沌とした中にも万物を生成しようとする鼓動している元気を言います。
・両儀:陰陽のことです。
⚊ 陽:天、日、昼、男、健、剛、夫、君、大、など
⚋ 陰:地、月、夜、女、順、柔、婦、臣、小、など
・四象:陰陽が交差して四組できたものです。時の流れを表現しています。老陽⚌(夏)、少陽⚎(春)、少陰⚍(秋)、老陰⚏(冬)。陰の中にも陽が含まれ、陽の中にも陰が潜んでいます。
・八卦:陰陽の画を三つ重ねたものです。2³=八卦。2(⚋ ⚊)×2(⚋ ⚊)×2(⚋ ⚊)
・爻:動的なもの。変化し、結合していくものです。変化・時間を表しています。
互いに交わって卦を成す意と、交わって動けば、他の卦に変化する意があります。
・小成の卦(八卦):「⚋」と「⚊」の爻を三つ画したものです。
・大成の卦(六画卦):小成の卦を二つ重ねたものです。下卦は八つの小成卦、上卦も八つの小成卦 8×8で64卦の大成卦ができます。
4.序卦伝
序卦伝は六十四卦の意味と変化の順序を説明しています。
周易の卦の配列を2つに大別すれば、次の様になります。
・因果関係があるものと相反するもの、そして両方を兼ねているもので成り立っています。
・錯卦、綜卦、及びその両方の組み合わせです。例を下記に列挙します。
相反:1乾䷀⇔2坤䷁(錯卦)、因果:3屯䷂⇔4蒙䷃(綜卦)、相反・因果:5否䷋⇔泰䷊(錯卦と綜卦)など
5.河図の数と先天八卦
夏至と冬至が黄道を二等分します。これを二至と言います。また、春分と秋分の昼夜は同じで二等分します。これを二分と言います。そして、これらを合わせて二至二分と言います。そうすると四象(季節)が形成されます。
中央に奇数の5が生じます。1,2,3,4,5は生数(万物発生)になります。6、7、8、9、10は成数(万物形成)となります。
伏羲は黄河中流で躍り出た竜馬の背中の図案を観て、自分が考察していた数理と一致することに気が付きました。
6.洛書の数と後天八卦
夏の時代、治水事業は国家の重要な事業でした。帝王の大兎が洛水(河南省西部の河川)から這い上がってくる亀の甲羅に描かれていた模様を見つけました。これが洛書(『書経』の洪範)です。
◆洛書と後天八卦-九宮八卦図-
後天八卦に洛書の数を当てはめれば九宮八卦図ができあがります。これは医学、建築、芸術など広く活用されています。洛書は後天八卦と云われています。
※『図書』という単語は河図と洛書から来ています。
7.十二消長卦
陰陽の盛衰を易の卦の爻の消長によって現わしたものです。
旧暦表記
8.十干十二支
十干は幹、十二支は枝の意味を持ち、幹と枝の関係を表します。これを干支(幹枝)とも言います。この幹の十干(10年で1周)と枝の十二支(12年で1周)を組み合わせ、且つ干支の陽干と陽支、陰干と陰支を組み合わせて60種類の干支がつくられています。中国古代の人は、これらを暦に適用し活用してきました。干支は60年で1周となります。この世は周期で動いています。古代中国の人々は60年を1周期として考えていました。
9.陰陽五行説
陰陽五行説は古代中国哲学で、この世に存在する森羅万象は陰陽の調和から成り立ち、陰陽の消長、変化、循環によって生まれるとする陰陽説と、宇宙の全ての万物は木火土金水の五つの気(五行)によってできているという考え方です。宇宙にはこの五つの気が絶えず循環しており、運行していることを行と言い、五行という。五行には相生・相克関係があり、森羅万象の生成・変化を説く考え方が陰陽五行説です。中国の春秋戦国時代の鄒衍(すうえん)によって唱えられました。我々が存在する宇宙・自然界は膨張(陽⚊)し、収縮(陰⚋)して循環します。
◆五行の法則
五行の法則には、相性と相克関係があり、相性は自分から他のものを生み出し、反対に他のものを剋していく相克があります。
相性
木生火:木は擦れて火を熾(おこ)す
火生土:火は燃えて灰(土気)となる
土生金:土から金属が生じる
金生水:金属の表面に水滴が生じる
水生木:水は気を育む
相克
木克土:木は根を締め付け、栄養を吸い取る
土克水:土は水を制御する
水克火:火は水に消火される
火克金:金属は日に溶かされる
金克木:木は金属の刃物に切り倒される
術数学関連書籍紹介
武田時昌先生の著書『術数学の思考』の紹介。
目次
序論 中国科学の新展開――術数学という研究領域
第一部 術数学のパラダイム形成
第一章 陰陽五行説はいかに形成されたか
第二章 物類相感説と精誠の哲学
第二部 漢代思想革命の構造
第一章 原始儒家思想の脱構築
第二章 漢代終末論と緯書思想
附録 術数学研究を振り返って(参考文献)
結びにかえて
※武田時昌(タケダ トキマサ)1954年大阪府生まれ。京都大学工学部卒業、文学研究科博士課程中退。文学部助手、信州大学助教授を経て、現在は京都大学人文科学研究所教授。専門は中国科学思想史。編著に『術数学の射程 東アジアの「和」の伝統』(京都大学人文科学研究所、2014)、『陰陽五行のサイエンス』(京都大学人文科学研究所、2011)などがある。2018年発行の『術数学の思考』の巻末より抜粋。尚、武田時昌先生は2020年に退官されています。
川原秀城先生の著書『数と易の中国思想史』の紹介。
目次
術数学原理
1.中国の「計量的」科学
2.中国の数術
3.朱子学は術数学か
術数学専論
4.大衍術
5.秦九韶の易筮法
6.皇極経世学小史
7.律暦淵源と河図洛書
術数学補論
8.『孫子』における天文と地理
9.中国古来の哲理・五行思想
10.中国の「はかり」の世界
11.術数的思考と中国医学
※川原秀城(かわはら・ひでき) 1950年福岡県に生まれる。東京大学名誉教授。専門は中国朝鮮史・東アジア科学史。著書に『中国の科学思想-両漢天学考』(創元社、1996)、『関流和算書大成-関算四伝書』1-3期(供編、勉誠出版、2008-2011)、『西学東漸と東アジア』(岩波書店、2015)などがある。2018年出版時のデータ。書籍巻末より出典。
◆関連図書の紹介
蔡恒息 著『易のニューサイエンス -八卦・太極図とコンピュータ-』
目次
第一章 序言
第二章 『易』の淵源
第三章 『易』の数理論理学
第四章 新太極図
第五章 『易』コンピュータと遺伝暗号のコード化
第六章 『易』と中国医学
第七章 太極角質図
第八章 グラフ理論・組合せ論・電子回路網と八卦
第九章 訳者あとがき
著者 蔡 恒息、訳者 中村璋八、武田時昌、発行者 安井正幸、発行所 株式会社 東方書店
初版 1989年、初版第4刷 1994年
※蔡 恒息(ツァイ ホンシー、さい こうそく) 動物学者として著名な蔡邦華を父に持つ。父と祖先の蔡元定(宋代の易学の専門家)の影響を受け、『易』の科学研究に専念する。出版当時、中国科学院動物研究所所属。書籍巻末より出典。